「障がいがあると転職するのは難しい?」「障がい者の雇用は狭き門?」とお悩みの方もいるでしょう。
今の職場に不満があるけれど障がいがあるからと転職をためらっている方もいるかもしれません。
しかし段階的に法定雇用率が引き上げられるなど、障がい者の働く場は年々広がりを見せています。
本記事では障がい者雇用の現状や、障がい者の転職が難しい理由、障がい者の転職を成功させる方法について紹介します。
障がい者の転職は難しい?狭き門?雇用の現状
障がい者の転職は難しいといったイメージがあるかもしれませんが、実は障がい者を取り巻く雇用状況は年々良くなってきています。
まずは障がい者雇用の現状をデータを元に紹介します。
障がい者の就職率は増加傾向
厚生労働省が公表している「令和4年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめ」によると、 令和4年度の就職率は43.9%で、前年度から1.0ポイント上回りました。
就職件数(件) | 対前年度座(比) | 就職率(%)(対前年度差) | |
---|---|---|---|
身体障がい者 | 21,914 | 1,085件増( 5.2%増) | 37.7(1.8ポイント増) |
知的障がい者 | 20,573 | 616件増( 3.1%増) | 57.8(0.2ポイント増) |
精神障がい者 | 54,074 | 8,189件増(17.8%増) | 43.8(1.4ポイント増) |
その他障がい者(※) | 5,976 | 3,533件減(37.2%減) | 37.0(4.3ポイント減) |
合計 | 102,537 | 6,357件増( 6.6%増) | 43.9(1.0ポイント増) |
※「その他障がい者」とは、障がい者手帳を所持しない発達障がい者、難病疾患、高次脳機能障がい者など
就職件数は年々増加しており、コロナ禍以前の令和元年度(103,163件)に近い水準まで回復しています。
特に令和4年度には「卸売業、小売業」の求人数が増加し、他にも障がい者の就職先として高い割合を占める「医療、福祉」「製造業」「サービス業(他に分類されないもの)」においても年々求人数が増えています。
参考:令和4年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめを公表します|厚生労働省
法定雇用率は段階的に引き上げ
障がい者の雇用率については「障害者雇用促進法」で詳しく定められています。
令和5年現在、民間企業での法定雇用率は2.3%です。
これは従業員43.5人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇う義務があるということです。
法定雇用率は今後も段階的に引き上げられていく予定で、令和6年度から2.5%、令和8年度からは2.7%になります。
国及び地方公共団体等の雇用率に関しても現在は2.6%(教育委員会は2.5%)ですが、令和6年度から3.0%(教育委員会は2.9%)に引き上げられる予定です。
今後法定雇用率が段階的に引き上げられることで、障がい者の働く場はさらに拡大していくでしょう。
障がい者の転職は難しい理由
障がい者の雇用状況は年々良くなっており、障がい者の転職における環境面の問題は少しずつ改善されています。
しかし実際に転職活動をしてみるとなかなか採用されず「やっぱり障がい者の転職は難しい」と感じている方もいるかもしれません。
障がい者の転職が難しい理由は人によって異なりますが、主に以下のものが挙げられます。
- まだ治療が必要で安定して働けない
- 自分の障がいをきちんと理解できていない
- スキルやマナーの問題
- 体調管理が難しい
上記の内容に当てはまっていると、転職活動が難航してしまうかもしれません。
まだ治療が必要で安定して働けない
障がい者の転職が難しくなってしまう理由の一つとして、安定して働けるほど症状が良くなっていないケースが挙げられます。
多くの企業は長く安定して働いてくれる人を求めています。
そのためまだしばらく治療が必要だったり、日によって症状に波がある場合は採用を見送られてしまうでしょう。
特に発達障がいや精神障がいの場合は二次障がいとして様々な症状が併発することも多いため、症状の種類や表れ方など個人の状況に合わせた多方面からの治療が必要です。
「もう大丈夫だろう」「そろそろ働けそう」と自己判断するのでなく、きちんと主治医に相談してから転職活動を始めるようにしましょう。
自分の障がいをきちんと理解できていない
自分の障がいについてしっかり理解できていない場合も、転職活動が難しくなってしまいます。
自分の障がいについて企業に正しく理解してもらうためには、障がいの種類や症状、出来ることと出来ないこと、どんな配慮や環境が必要なのかを伝えないといけません。
もし自分自身の理解が曖昧なままだと上手く伝えることができず、企業側も自社にあなたを受け入れる環境があるか判断ができないため不採用になってしまいます。
万が一採用されたとしても適切な合理的配慮が得られないと、働き辛さを感じて早期退職に繋がってしまうかもしれません
転職活動を行う際には、自分自身の障がいについて分かりやすく説明できるよう準備しておくことが大切です。
スキルやマナーの問題
障がい者枠の転職であっても一般枠と同じように、必要なスキルや経験がないと採用を見送られます。
必要なスキルは業界や職種によって異なるため、応募する際は自分のスキルや経歴が募集要項にマッチしているかの確認が必須です。
特にスキルや経験がないといった方は「未経験歓迎」の求人を選び、意欲や熱意をアピールすると良いでしょう。
また社会人の基本として、最低限のビジネスマナーやコミュニケーション能力も必要です。
マナーやコミュニケーション能力はすぐに身につくものではないので難しいですが、障がい者訓練(ハロートレーニング)など、障がいのある方を対象とした職業訓練もあるので、有効に活用していきましょう。
参考:ハロートレーニング(障害者訓練)|厚生労働省
体調管理が難しい
健康に気を付けて規則正しい生活を送ることは、安定して働くための基本です。
せっかく転職できても、体調管理が疎かだと継続して働くことができません。
寝不足が続いて頻繁に遅刻してしまったり欠勤が続いたりすると職場に居づらくなってしまいます。
安定して働き続けるためにも、十分な睡眠をとる、決まった時間に食事をする、適度に運動するなど、毎日の生活リズムを意識して過ごしましょう。
日ごろから自分自身の体調を把握しておくことで、体調不調にも早めに気付くことができます。
障がい者が転職を成功させるには
障がいのある方が転職を成功させるためには様々な事前準備が必要です。
場合によっては公的な支援や民間のエージェントを利用するのも良いでしょう。
ここからは、障がい者が転職を成功させるための方法を紹介します。
障がい者雇用か一般雇用か選ぶ
まずは障がい者雇用枠で働くのか一般枠で働くのかを決めましょう。
一般枠は選べる仕事の種類が多く給料も高い傾向にありますが、障がい者枠のような合理的配慮を得ることはできません。
障がい者枠は職場での合理的配慮が受けられるので働きやすいですが、一般枠に比べて仕事の種類は少なく給料も低い傾向にあります。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターの「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、職場の定着率は障がい者求人(障がい者雇用枠)が最も高くなっています。
障がい者求人 | 一般求人(障がい開示) | 一般求人(障がい非開示) | |
3カ月後の定着率 | 86.9% | 69.3% | 52.2% |
1年後の定着率 | 70.4% | 49.9% | 30.8% |
障がい者雇用枠と一般枠にはそれぞれメリットデメリットがありますが、障がい者雇用枠のほうが働きやすい環境が整っている傾向にあります。
自分の障がいや必要な配慮をしっかり把握する
面接で自分の障がいや症状、必要な配慮などを正確に伝えられるよう、自分自身の障がいへの理解を深めておきましょう。
面接時に詳しく伝えることで会社側も採用する準備ができますし、自分自身も合理的配慮を得られて働きやすくなります。
定期的な通院や勤務中の服薬が必要など、障がいの種類や症状によって必要な配慮は異なります。
まずは自分の障がいについてしっかり把握し、特性や必要な配慮を会社に伝えることが大切です。
転職の条件を明確化する
どうして転職したいのかを深掘りし、次の職場に求める条件をまとめておきましょう。
転職を決意するには次のような様々な理由があります。
- 仕事内容が不満
- 通勤時間を短くしたい
- 給料を上げたい
- 配慮が整った環境で働きたい
- 在宅ワークがしたい
全ての条件を満たす職場を探すことは難しいので、条件を挙げたら優先順位をつけていきます。
転職後に「前の職場の方が良かった」と後悔することのないよう、条件を明確化する作業は丁寧に行いましょう。
自分に向いてる仕事を選ぶ
仕事選びは自分のスキルや経験、やりたいことだけでなく、障がいの特性も考慮に入れて行いましょう。
障がいの特性に合った仕事を選ぶことは安定して働き続けることに繋がるからです。
やりたいことを重視して選ぶことも悪くはありませんが、向いてない仕事だとストレスがかかって体調を崩してしまうリスクがあります。
障がいのあるなしに関わらず、転職活動では自分の得意不得意を見極める自己分析が大切です。
障がい者の転職では自己分析の一つとして自身の障がいの特性を把握し、無理なくできる仕事を選ぶと良いでしょう。
障がい者向けの就職支援を利用する
いきなり転職するのは不安…と感じている方は、障がい者向けの就職支援を活用してみると良いでしょう。
「障がい者トライアル雇用」は、試用期間として短期間働いてみて企業と求職者両方が合意すれば本採用が決まる制度です。
まずは実際に働いてみてから継続して就労するかを考えられるので、ミスマッチを防ぐことができます。
もし本採用に至らなかったとしても、数カ月勤務することで就労可能であることを証明することができます。
「就労移行支援」は障がいのある方の就職をサポートする福祉サービスです。
仕事に必要なスキルを身につけるための職業訓練を1カ月〜2年行った上で就職活動をサポートしてくれます。
職業訓練では仕事のスキルだけでなく体調管理やコミュニケーション能力など働くために必要な知識を学ぶことができます。
参考:「障害者トライアル雇用」のご案内|厚生労働省
就労移行支援事業|厚生労働省
転職エージェントにサポートしてもらう
事前準備から求人探し、選考対策、スケジュール調整など、転職活動はやることがたくさんあるので全てを一人で行うのは大変です。
特に障がいのある方の転職では、障がいの特性なども考慮に入れて仕事探しをしないといけないので「難しい」と感じてしまうのも無理ないでしょう。
転職活動の負担を軽減するためには、転職エージェントを利用することをおすすめします。
転職のプロであるアドバイザーが転職活動を全面的にサポートしてくれるので、初めての転職でも安心です。
第三者からの客観的なアドバイスが聞けるので、自分では気付かなかった長所が分かりキャリア選択の幅が広がる可能性もあります。
障がい者向けの転職エージェントであれば、面接官への障がいや必要な配慮の伝え方など、障がい者の転職ならではのアドバイスもしてもらえます。
企業とのやり取りやスケジュール調整も代行してくれるため、求人選びと選考だけに集中できるのもエージェントを利用するメリットです。
転職エージェントはたくさんあるので、まずは2~3社登録して自分に合ったサービスを利用すると良いでしょう。
こちらの記事では障がい者向けのおすすめ転職エージェントを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
障がい者の転職は自己理解が大切!
就職率の増加や法定雇用率の引き上げなど、障がい者を取り巻く雇用状況は年々改善しています。
障がい者の転職が難しいと感じるかどうかは障がいの種類や特性にもよりますが、大切なのは自己理解を深めることです。
自分自身の障がいを正しく理解して仕事を選ぶことでミスマッチを防止できますし、自分の障がいをしっかり理解できている方は合理的配慮が明確なので、企業側も採用しやすいでしょう。
自己理解を深めるためには、第三者からのアドバイスも重要です。
障がい者向けの転職エージェントを利用するなど、周囲のサポートも借りながら転職活動を進めていきましょう。